カテゴリ:本・映画( 42 )

コンピュータのきもち

【送料無料】コンピュ-タのきもち

【送料無料】コンピュ-タのきもち
価格:1,575円(税込、送料別)






 2002年10月発売の本だが、いまで言えば、ブログに掲載した記事をそのまま書籍にしたような雰囲気の、筆者 山形浩生が読者に話しかけているような、はたまたひとりごちしながら書いているような本である。

 ざっくり言えば、コンピュータ(ハードやOS、インターネット、周辺機器との関係性なども含めて)の生い立ちと成り立ちを描いたエッセイだ。

 例えば、書類をプリントアウトするとき、なぜ「打ち出す」と言うのか、なぜ紙のコピーを「焼く」と言うのか、という話も、実はコンピュータの成り立ちに関わっているのだ。

 そういった話を、真面目一辺倒ではなく、どこかはすにかまえて、時にパソコンオタクを馬鹿にしながら、時にパソコンオンチを哀れみながら、ユーモアたっぷりに書いている。

 車に詳しい人に、「ブレーキのききが悪いみたいなんだけど・・・」と相談しても、車に詳しい人は怒ったりしない。でも、パソコンに詳しい人に、「パソコンの動きが悪いみたいなんだけど・・・」と相談すると、パソコンに詳しい人は、「もっと状況を詳しく教えてくれなきゃわからないよ!」と怒ったりするのだ。そんな話しも載っていた。

 そうなのよ。パソコンのことで相談されても、ちゃんと状況を説明してくれなかったり、こっちの質問に的確に答えてくれなかったりすると、なぜかイライラして怒ってしまうのよ。そうなのよ。

 そして、パソコンに詳しい人がそうなってしまう理由も、本にはきちんと載っているので、パソコンに詳しい人に相談して、怒られた経験のある人も、ぜひ読んでみてくれたら嬉しいな・・・。

 あと、わたしはこの本を読んでいて、昔、中学や高校の授業中に、先生が少し脱線をして、ちょっとしたウンチクや雑学を話してくれたときのことを思い出した。そこには、学生だった自分がまだ知らない実社会の片鱗に触れることができたような感覚があって、わたしは先生の脱線話しが大好きだった。
 テスト勉強なんて教科書があれば自分ひとりでもできるけど、脱線話しは話してくれる人がいなければ聞けないものだから、いま思い返しても、有意義で貴重なものだったと思う。

 そんな風に、コンピュータの使い方なんて、マニュアル本があればなんとかなるけれど、「コンピュータのきもち」を教えてくれる本なんてめったに無い。これは読んでおいて損は無い、良い本だと思う。
 
[PR]
by mimimarutaro | 2011-08-05 22:26 | 本・映画

さまよう刃

 東野圭吾の「さまよう刃」を読みました。いや~、重たい内容の小説なので、普段なら感想とか書かないんですけど、ちょっと行きがかり上(?)、書かないわけにはいかなくなってしまったようで・・・。

 読み始めてまず思ったのが、こんな話を書いてしまう東野圭吾が一番悪人じゃんっ!と。で、読み終わったときもやっぱり、東野圭吾は悪人だ、と。

 念のため言っておきますが、東野圭吾はエッセイも持っているし、好きな小説家の1人ですよ(^^;A

 でも、「さまよう刃」の内容は本当に重く、ショッキングでもあるので。あんなの書いている間って、どんな心理状態なのだろう?とも思ってしまった。

 ところどころに、まだ救いのあるエンディングにもっていけそうな枝道が見えていたのに、結局一番やりきれない結末を選んだのは、なぜなんだろう。

 この小説の中では、愛娘を犯罪で亡くした父親が、加害者の少年達に復讐をする、その是非と、少年法の実状というのが、大筋で投げかけられている問題だ。
 しかし、その他にも、加害者の親達の問題なども。自分の子供が、世間の常識からは外れた行動をしていることに気づいていながら、面倒なことは避けたいと放任し、しかし、その子供がいざ犯罪者となったときには、何かの間違いだとか、悪い友達に誘われたせいだとか、身勝手なことを言う、しかしありがちな親達。そういった親達が、未成年の犯罪者を作り出しているのではないかという問題提起。

 でも、問題は投げかけられているだけで、決して小説の中で結論はつけられていない。それがまた、読後もしばらく心が闇に囚われてしまった要因でもあるのかも。とにかく読んでいるときも、読み終わった後もしんどかった。

 ただ、長編ではあったけど、色々な問題が広げっぱなしの状態で終わってしまっているので、物足りなさも感じた。もう少しだけ事後のエピソード、例えば、あの事件を、マスコミではどう取り上げて、どう結論づけたのかとか、そういう章が欲しかったかも。

 あと、もう1つ。これはできれば公にしたくない感情だけれど、読んでいるとき、わたしは、加害者スガノへの、残忍な復讐描写をどこかでずっと期待していた。生きたまま性器を切り取ったりとか。そして、恐怖して泣き叫ぶスガノの姿を。
 だから途中、ただ撃ち殺すだけになってしまいそうになったときには、ずいぶん残念だとガッカリもした。

 この感情は、自分でも理論立てて説明や結論を述べれないので、東野さんにならって、これはこのまま投げっぱなしにしておくことにする。


さまよう刃 (角川文庫)

新品価格
¥740から
(2011/2/10 20:34時点)



[PR]
by mimimarutaro | 2011-02-10 21:43 | 本・映画

ネコ裁判

 ここのところ復調したが、モノを書くというアウトプットが、どうにもこうにも出来なくなることが、たまにある。いまは、モノ書いてなんぼで稼ごうとしているので、アウトプットのできない時期というのは、ものすごい自己嫌悪、自己否定に襲われる。

 でも、そんなこと思ったって書けないもんは仕方ないと開き直って、ここ2ヶ月くらい、アホみたいに本を読みまくっていた。出力できないときは、諦めて入力に徹しようというハラである。

 で、読んで面白かった本を紹介。「うちのネコが訴えられました!?―実録ネコ裁判―」という本だ。


うちのネコが訴えられました!?

うちのネコが訴えられました!?

価格:1,365円(税込、送料別)



 この本は、“【実録】ネコ裁判 「ネコが訴えられました。」”というアメーバブログが書籍化されたもので、リンク先のブログでも読むことができる。本も、装本はほぼブログの内容、レイアウトのまま(下の写真)なので、1ページの文字数が少なく、とっても分厚くなっている。タダでも読めるものだが、ボリュームがあるので、やっぱり本になっているほうが、何かと便利で読みやすい。

 ある日、ブロガーの山田さんのもとに、「あなたのネコを訴えます」という内容証明書が届き、いきなり裁判を起こされてしまう。お宅のネコがうちの車にキズをつけたので、修理代110万円を払えというのだ。
 起こされてしまった以上、裁判には出廷しないと、自動的に敗訴で、110万円ふんだくられることとなる。でも、弁護士を雇っても、なんやかんやで持ち出しが20万円ほど。そこで山田さんは、裁判で自ら原告と渡り合っていくことに。
 しかし、この原告の川畑というヤツが、非常識極まりない。まあ、いきなり何の話し合いもなく裁判なんて起こすようなヤツだ。常識なんて持ち合わせていようもないのだろうが、それにしても酷い。別世界の話のような、独自の理論を展開しながらキレまくる。

 テレオペ時代にも、こういうヤツ、たまにいたよなぁ、と思いながら、ときにイライラ、ときに失笑、そして、ときに爆笑しながら、一気に読んでしまった。かなりクセになる。彼もほぼ徹夜して一気に読んで、それ以来、的外れな自己主張をするヤツなんかを見ると、「オマエは川畑かっ!?」と2人で突っ込んでしまうくらいのハマリ様(笑)。

 同じくアメーバブログで、“【続】ネコ裁判 「隣のネコも訴えられました。」”も公開されている。【続】のほうが、山田さんの文章のうまさがパワーアップしていて、爆笑回数が多かった。暇なときにでも是非。川畑にはまるよ(笑)。

a0006252_11102340.jpg

[PR]
by mimimarutaro | 2010-07-27 11:12 | 本・映画

コンピュータはむずかしすぎて使えない

 TOYOTAプリウスの問題が連日ニュースで取り上げられているのを見て、ふと思い出した話がある。それは昔、H部長に紹介してもらった、「コンピュータはむずかしすぎて使えない」という本だ。

 この本の内容を照らし合わすと、「コンピュータにはこんなに欠点がある。だからプリウスの事故も、制御装置の不具合なんでしょ!?」となってしまいそうだが、この本のことは、本当に、ふと思い出しただけだし、もしプリウスの制御装置に欠陥があったのだとしても、実質的なコンピュータの不具合と、この本で提唱しているインターフェイスデザインの問題とは本質が違うので、誤解なきよう。

 もちっと言わせてもらえば、わたしは、どちらかと言えばアンチトヨタではあるが、対アメリカとなれば、やはりナショナリズムが勝利するのか。いやいや、米国内の今回のトヨタ問題は、冷静に考えたらやっぱりなんかおかしいでしょ。
 確かにアクセルペダルが戻らなくなるという、部品の欠陥や、フロアマットの問題によるリコールが立て続けにあったので、今回もと、車の欠陥を疑いたくなる気持ちはわかるけど、あの公聴会での、なにがなんでも豊田社長に、電子制御装置に欠陥があったと言わせたがっていた様子には呆れ返った。

 公聴会で豊田社長が、「トヨタで検証、実験した限りでは、電子制御装置に欠陥はなかった」と言っているにも関わらず、閉会後のテレビインタビューに、「電子制御装置の欠陥について、ちゃんとした回答がなかった!」とヒステリックな様子で話していた女性がいたが、思わず、「だ~か~ら~、社長は検証した限りでは問題はなかったと言ってたでしょうが! 自分が希望する、欠陥があったという答え意外は耳に入らんのかいっ!?」と声に出して突っ込んでしまったし。

 おっと。ついつい熱くなってしまうので、プリウス問題の話はこのへんで。今日、紹介したかったのは、「コンピュータはむずかしすぎて使えない」という本、読み物としてもけっこう面白いよ、という話し。
 しかも、大盤振る舞いでなんと、第一章がサンプルとしてPDFで読めるようになっているのだ。ここでは、サンプルの中の、そのまた一部を抜粋して載せておくので、暇なときにでも読んでみたら面白いと思うよ。でもって、サンプル部分を全部読んでみたいという方がいたら、記事下部のリンクからどうぞ。


第一章 情報時代のなぞなぞ


コンピュータと飛行機のあいの子ってなーんだ?

 1995年12月、アメリカン航空の965便はマイアミからコロンビアのカリへ、いつもどおりに離陸した。着陸間際に、このボーイング757のパイロットは次の電波航行目標をROZOにセットしなくてはならない。パイロットは、航行コンピュータにRを入力。すると、コンピュータは、近くの航行目標のうちRで始まるものの一覧表を表示した。緯度も経度もそれらしかったので、パイロットはリストのてっぺんにあるものを選んだ。が、不幸なことにパイロットが選んだのはROZOではなく、そこから北東300キロのところにあるROMEOだった。
 ジェット機は南に向かって飛んでいて、南北に走る谷に降下中だ。そこから横にずれると非常に危険な状況だ。だがフライトコンピュータの指示に従って、パイロットたちは機首を東に向けようとして、高度3千メートルで山に激突。乗客152人と乗務員8名が死亡、助かった4人の乗客も重傷。アメリカ運輸安全委員会が調査を行って――いつものように――これは人間の操作ミスによるものだと発表した。

 パイロットたちが従っていた航行支援システムは、まちがってはいなかったけれど、カリでの着陸には有効ではなかったわけだ。確かに文字通りにいえば、これは人間の操作ミスではある。パイロットがまちがったポイントを選んだのが悪い。でも、もっと広い目で見れば、これはパイロットのせいなんかではまったくない。

 飛行機の航行コンピュータのパネルには、いま選ばれている航行目標と、そこからの逸脱を示す目盛りがついている。飛行機がコース上にあれば、針はまんなかにあるけれど、その針は選んだビーコンが正しいかどうかについて、何一つヒントを示してくれない。このゲージは、着陸直前だろうと激突直前だろうと、まるっきり同じ状態だ。コンピュータは、パイロットが選んだビーコンに向かうコースをきちんとたどっていることは告げてくれる。でも、そのビーコンの選択が致命的なものだということは教えてくれないのだ。

 コミュニケーションは、厳密で正確であっても、同時にどうしようもなくまちがっていることもある。これはコンピュータとのやりとりでしょっちゅう起きることで、しかもコンピュータは現代生活のいたるところに入り込んでいる。われわれの乗る飛行機から、ありとあらゆる家電製品やサービスまでコンピュータはほとんどどこにでもあるし、そのどれも、コミュニケーションや動きがどうしようもなくお粗末だという点で共通している。

 コンピュータ業界の有名な冗談にこういうのがある。ある人が、小型機で飛んでいるうちに雲のなかで迷子になった。そこで降下してみると、オフィスビルがあったので、そこの開いている窓に向かって怒鳴った。「すいませーん、わたしいま、どこにいるんでしょうか?」すると窓の中の人はこう答えた。「あなたは地上三十メートルくらいを飛行中の飛行機の中にいます」 パイロットはすぐに正しい航路に戻って、空港を見つけて着陸した。乗客たちは驚嘆して、どうしてあれで行き先がわかったのかをきいた。パイロット曰く「あの人の答は、完全に正しくて本当のことだったけれど、でもまったく何の役にもたたなかったでしょう。だからすぐに、あれがマイクロソフトのエンジニアだとわかったんですよ。マイクロソフトの建物から見て空港がどこかは知っていましたから」

 965便の悲劇を思うと、このジョークのオチは陰惨に聞こえるけれど、でもデジタル業界の人たちはこのジョークをしょっちゅう嬉しそうに話す。それがコンピュータについての根本的な真理を言い当てているからだ。
 コンピュータは、事実は教えてくれるけれど、役にたつことは教えてくれない。正確な案内はするけれど、いきたいところへは案内してくれない。965便のコンピュータは、パイロットたちに「カリへの進入にROMEOは適切じゃないですよ」と教えられたはずだ。その選択が変だとか、疑問だと匂わせるだけでも、この飛行機は救えただろう。でも、コンピュータは実際のフライトやその乗客たちのことは一切気にしていなかった。自分の中の計算のことだけを気にしていたわけだ。

 使いにくいコンピュータはわれわれみんなに影響を与えるし、しかもその影響は致命的だったりする。ソフトウェア製品は、別に必然的に使いにくいわけではない。ただ、それをつくるときのプロセスがまちがっているのでそうなるだけだ。
 この本では、この悪しきプロセスの影響とその原因を示すことで、それを明るみにだしてやろうと思う。それからそのプロセスを変えることで、ソフト製品を親切で強力で望ましいものにするやりかたを示そう。この章ではまず、問題がどれほど深刻かを示す。


コンピュータとカメラのあいの子ってなーんだ?

 情報時代のなぞなぞを一つ。「コンピュータとカメラのあいの子ってなーんだ?」
 答え:コンピュータ!
 
 30年前のわたしの最初のカメラは、35ミリのペンタックスHで、光量メーターの電源用に小さな電池が入っていた。腕時計の電池と同じように、それを何年かおきに換えるだけ。
 十五年前には、初のオートマチックカメラを買った。35ミリのキヤノンT70で、単三電池二本を電源にして、単純な露出制御のコンピュータと自動フィルムドライブが使えた。簡単なオン/オフスイッチで、電池が無駄に減らないようになっている。

 5年前に、フィルムを使わないロジテックのカメラを買った。第一世代のデジタルカメラで、これにも似たようなオン/オフスイッチがあるけれど、今度のは中身にちょっとしたコンピュータが入っている。だからスイッチを切るのを忘れても、1分間操作がないと、自動的に電源が切れる。なかなかいいね。

 1年前に第二世代のデジタルカメラを買った。パナソニックのPalmCamだ。中にはもっと頭のいいコンピュータチップが入っていて、オン/オフスイッチも、オフ/録画/再生スイッチにまで進化した。カメラにモードができたわけだ。録画したければ録画モードにして、小さなビデオ画面に出したいときは、再生モードにするわけだ。

 最新のカメラはニコンのCoolPix900だ。第三世代のデジタルカメラで、いまだかつてないほどインテリジェント化されている。中には、完全に立派なコンピュータが内蔵されていて、「起動」するときにウィンドウズみたいに砂時計まで出てくる。頭がたくさんついた奇形の魚みたいに、オンオフスイッチもすすんで、ポジションが四つもある。Off/ARec/MRec/Play。ARecというのは自動録画で、MRecというのはマニュアル録画なんだけれど、わたしに言わせれば、どっちもぜんぜんちがわない。「オン」というポジションはなくて、友だちも、長々と説明を受けないと、だれ一人として使い方がわからない。

 この新しいカメラはとても電気を喰うので、エンジニアたちは親切にも、バッテリー消費を管理する高度なプログラムをつけてくれている。よくあるシナリオはこんな感じだ。
 邪悪なオフ・なんとかスイッチを、MRecにあわせて、カメラが起動するまで七秒も延々と待って、目標にカメラを向ける。カメラをかまえて、いい構図になるようにズーム。ちょうどシャッターを押そうとしたところでこのカメラは、ズームと、フラッシュの充電と、画像表示とを同時にやると電力が足りないことに気がつく。そこで自衛のため、カメラは写真を撮る機能をサスペンドしてしまう。
 が、わたしはそんなことは知らない。ファインダーをのぞいて腕をふりまわしつつ「笑って笑って」と言いつつシャッターを押しているからだ。コンピュータは、シャッターが押されたのは知っているけれど、でもいまは残念ながらダメなんですよ、というわけ。そこで、なんとかしてあげましょう、というわけで、電力管理ソフトがしゃしゃり出てきて、上位判断を下す。配電統制をかけるのだ。そして、電力喰いの液晶ディスプレイを消してしまう。
 わたしは、あれれ、とカメラを眺め、なんで写真が撮れなかったのかな、と不思議に思い、肩をすくめて、カメラを持った手をおろす。でも、液晶が消えると、ほかの機能にまわす電力に余裕ができる。電力管理ソフトはこれを検出して、ああこれで写真を撮るだけの電気がある、と気がつく。そこで、カメラのプログラムに制御を戻す。このプログラムは、わたしがシャッターボタンを押したときの指令を実行しようとして、ずっと待っていたわけだ。
 そして、オートフォーカスで、露出も計算して、とても高画質の写真を撮ってくれる。わたしの膝小僧の写真を。

 むかしの機械式ペンタックスは、ピントも手動、露出も手動、シャッター速度も手動だったけれど、完全にコンピュータ化されたいまのニコンCoolPix900より、ずっと頭にくることは少なかった。ニコンのほうは、ピントも露出もシャッター速度も自動なのに。こいつは、写真は撮るけれど、やることはカメラよりはコンピュータになっているわけだ。

 カエルを水に入れて火にかけると、カエルは水温の上昇に気がつかない。熱でカエルの感覚は麻痺してしまうからだ。わたしもカエルと同じく、カメラが使いやすいものから、コンピュータ化されて使いにくいものへとゆっくり移行したのに気がつかなかった。われわれみんな、日常生活の中にコンピュータ的なふるまいがジワジワ入り込んでいるのに、麻痺してそれに気がついていないのだ。


コンピュータと車のあいの子ってなーんだ?

 答え:コンピュータ!

 ポルシェの見事な最新式ハイテクスポーツカー、ボクスターは、複雑なシステム制御にコンピュータを7つ使っている。1つはエンジン制御専用。そして異常事態に対処するように、特別な処理もついている。が、それがときどき墓穴を掘る。
 初期のモデルでは、ガソリンがかなり少なくなると(残り1リットルとか)、急カーブをまがったときの遠心力で、燃料パイプに空気が入り込むことがあった。コンピュータはこれを、燃料そのものが何らかの理由で急変したんだと解釈して、これは燃料噴射システムが完全にイカレたんだと判断。ダメージを避けるべく、コンピュータはイグニッションをシャットダウンして車を停めてしまう。
 さらに被害拡大を防ぐべく、このコンピュータはエンジンを再起動させてくれなくなる。レッカー車を呼んで、サービス工場で修理を受けろ、というわけだ。

 初期のボクスターのオーナーたちがこの問題に気がついたとき、ポルシェ側が出せる解決方法は一つしかなかった。エンジンルームを空けて、バッテリーを五分ほどはずすように。そうすればコンピュータは、この事故のことを忘れますから。スポーツカーは、二車線アスファルト道路を高速で下ってはいくけれど、急カーブになると、コンピュータみたいにふるまうのだ。

 ボクスターのオーナーたちを守ろうという立派な努力のために、プログラマたちはそのオーナーたちを、バカにされた被害者にしたててしまった。
 高性能乗用車マニアならだれでも、ポルシェはその顧客に対して敬意と特別扱いを大盤振る舞いするのを知っている。こんなことが見逃されたと言うことは、この車の中のソフトが、車のその他の部分をつくっているポルシェとはちがうポルシェからきているということを物語る。それは会社の中の会社からきている。プログラマという会社。伝説的な自動車エンジニアたちではない。
 どういうわけか、新技術の導入のせいで、伝統ある高名な会社はまごついてしまい、その看板ともいうべき価値観の一つを台無しにしてしまったことになる。ソフトエンジニアにとっての品質基準は、これまでの工学分野の基準よりずっと低いのだ。


コンピュータと銀行のあいの子ってなーんだ?

 答え:コンピュータ!

 キャッシュディスペンサーからお金を引き出すたびに、あのコンピュータ特有の、つっけんどんで扱いにくいふるまいに出くわすことになる。ちょっとでもまちがえたら、これまでの操作全部がダメになって、振り出しに戻される。カードを引き出して、差しこみなおして、暗証番号を入れて、またこちらの要求を出す。それにふつうは、そのまちがいもわたしのせいではなくて、この機械のせいでまちがえるようにし向けられるのだ。

 こいつはいつも、お金をどの口座から引き出すかきいてくる。小切手用の口座か、普通の口座か、投資用口座か。でも、わたしは小切手用の口座しか持っていない。だからいつも、その口座の名前を忘れてしまい、機械にきかれてまごつくはめになる。月に一度くらい、うっかり普通口座を選んでしまうと、この地獄の機械はこちらの操作を完全にキャンセルして、最初からやりなおせと言ってくる。
 「普通口座」をはねるわけだから、この機械はわたしが普通口座なんか持っていないのを知っているわけだ。でも、それを平気で選択肢に出してくる。わたしが「普通口座」を選ぶのと、965便のパイロットがROMEOを選ぶのとで何か差があるだろうか? 結果として受ける罰の大小がちがうくらいだ。

 この機械はまた、引き出し限度額を一日200ドルとしている。すべてのステップをちゃんとこなしても――暗証をちゃんと入れて、口座も選んで、金額も選んで――そして220ドルほしいといったら、コンピュータは全操作をキャンセルして、おまえは限度額を超過した、と無礼に言ってくる。その限度額がいくらなのか、あるいは口座の残高がいくらなのかは教えてくれないし、金額だけ入れ直すのもやらせてくれない。単にカードを吐き出して、こっちは最初っからやりなおすしかないし、何の新しい情報ももらっていない。背後の行列はどんどん増えて、みんなもじもじ、キョロキョロ、ため息。
 キャッシュディスペンサーは、厳密で正確ではあるけれど、何も助けてくれないのだ。
 
 向こうには向こうの決まりがあるのはわかるし、それにしたがうのはやぶさかではない。でも、その決まりがなにかを教えてくれなかったり、それに反するような選択肢をよこしたりしておきながら、無邪気にも決まり以外のことをしてしまうとすぐに罰するというのは、
どうしようもなくコンピュータだ。この行動――いかにもコンピュータ――は、コンピュータ固有の性質ではない。
 実はコンピュータにとっては、何一つ固有ではない。コンピュータはソフトウェア、つまりプログラムのかわりに行動するだけなんだから。そしてプログラムは、人間のことばと同じくらい融通がきく。
 人は、無礼にもしゃべれるし、礼儀正しくもしゃべれる。親切にもなれるし、意地悪にもなれる。人間が敬意をもって親切にふるまうのは簡単だし、コンピュータだって同じくらい簡単にそういうふるまいができるのだ。だれかがそのやりかたを示してやれば。残念ながら、プログラマという連中は、それをコンピュータに教え込むのがあまり得意ではないのだ。



サンプル : 第一章 情報時代のなぞなぞ(PDFで開くよ) by翔泳社 新刊のご案内
 
[PR]
by mimimarutaro | 2010-04-02 17:34 | 本・映画

もやしもん8巻

 梅雨明け宣言があったのに鬱陶しい天気が続いても、冷夏でも、景気が悪くても、この1週間でビールの売り上げが伸びたとしたら、それはきっと、もやしもん8巻の経済効果かも。

 今回のテーマはビール。ムトウよろしく、わたしも地ビールには、あまり良い思い出がない。きっと厚木のラ〇ビックのせいかも? シソビールなんていただけませんわ。伊豆のミカンビールとかもいまいちだしな~。ビール=食事と一緒においしく飲めるもの、という感覚が強すぎて、アロマな感じのは、わたしの趣味に合わないんだろうなぁ。

 でもヒューガルデンホワイトとか大好きだし。地ビールは駄目、とは一概には言えぬ。そうそう、よなよなエールとかも好きだしね。

 そして、もやしもんはいつも、ゲラゲラ笑いながら読むことが多いが、なんだか今回は泣かされた。なんだろう、けっこう泣かされたぞ!! 酔ってたのかな?疲れてたのかな? ムトウが全校に呼びかけるシーンや、各ビールメーカーの協賛に、涙がよよよよよよよよよ。

 あ~、とりあえずビール飲みて(笑)。


もやしもん(8)

[PR]
by mimimarutaro | 2009-07-29 22:30 | 本・映画

本の部屋

 タイル流し台に続いて、もう一つたくらんでいることが。それが、本の部屋作成計画。
 
 最近わかったこと。それは、一度手放してしまった本は二度と戻らないということ。
 
 二度と戻らないというのは大げさかもしれないが、10年前、20年前に持っていて、部屋の狭さや引越しの関係で手放したマンガたち。つい5年前までは当たり前のように、BOOKOFFでごろごろ売りに出されていたから、高をくくっていたのだが、ふと気付いてみれば、わたしの懐かしのマンガたちは、BOOKOFFでもほとんど目にすることがなくなってしまった。

 飲みながら昔のマンガの話で盛り上がり、無性に懐かしくなり、BOOKOFFに立ち寄ったこともあったが、本当に、そのとき読みたかったマンガはまったく並んでいなく、喪失感と危機感を強めたのだ。

 で、そろそろ最後のチャンスになるかもしれない、古本買い戻し計画を実行し、そのマンガたちは、2人で一軒家に住むという利点を生かした、1部屋まるまるの本の部屋に永久保存しようかと考えているのだ。

 ↓こんなのをそろえたいのだ!!基本は全部、昔持っていたマンガ。でも、今そろえようと思うと、愛蔵版ばっかりだが、なんとかコミックで手に入れたいんだよね~。

 メモを兼ねたら、だいぶボリューム出てしまったのでMOREに・・・。

買い戻し本リスト
[PR]
by mimimarutaro | 2009-07-25 22:15 | 本・映画

銀座小悪魔日記

 長風呂の友にと、BOOKOFFで105円で買った銀座小悪魔日記。なんとなしに手に取り、読み始めてみたら、面白い!

 綺麗な女性がパワフルに、魅力的に生きている姿って、なんだかこっちまで元気がもらえる。

 蝶々さんのやっていることと言ったら、おデブの彼氏(蝶々さんと付き合うために妻子を捨てた)と仲良しでいながらも、浮気相手(これまた蝶々さんと出会ったがために婚約解消した)とウキウキの恋愛を繰り広げ、銀座のおじさま方を手玉に取るという、相当にワルな感じのオンナ道。

 そんな波乱万丈でジェットコースターに乗りっぱなしなような日常を、日記形式で、ネットに公開(それが後に本となった)。そんな内容のものを読みながら、なぜかわたくし、その1週間ほど、愛に満ちた気持ちで、めっちゃ寛容に、幸せな気分で過ごしたのでございます。その更に1週間後には、さっさと仕事のイライラがぶりっ返して、また不機嫌に過ごしてたけど(笑)。

 人によっては、そんな蝶々さんの生き方を見て、なぜこっちまで幸せを感じたり、愛情がわいてきたりするのか、さっぱりわからないと言うかもしれない。
 でも、純愛とか一途とか、真実の愛とか、浮気はダメ、不倫はダメ、な〜んて世界や主張なんかよりも、よっぽど欲望に自由でいるほうが、人間的には純粋で、愛に満ちているように、わたしには思えたんだけどなぁ。

 浮き沈みというようりも、どうも沈みがちの最近、なんかまた元気になれるような本があったら出会いたい。おすすめあったら教えてください♪



銀座小悪魔日記
[PR]
by mimimarutaro | 2009-02-20 12:08 | 本・映画

複雑ネットワーク

 昨日は漫画NANAの15巻を買うついでに、ひさびさに本屋を物色。

 2006年、秘かに決めたことがある。
 もともと本は小説や漫画など、物語りしか読まなかった。ハウツー本や新書の類は嫌いで、年間に2冊読むか読まないかだった。で、このままじゃいかんだろ?!と、三十路にして思いたち、読みたい漫画や小説を買うときには、なんかしらの知育本も抱き合わせで買って読むことにしたのだ。

 そんなわけで、昨日もその知育本を決めるのに、1時間近くも本屋をうろうろしてしまった。

 コンピュータサイエンスか、ビジネス啓発、または自己啓発あたり、
と、ジャンルは大まかに決まっている。が、お金が無いのでハードカバーや、1,000円以上するものは買えない。その縛りがなかなかツライ。面白そうなものは全部2,000円前後さ(ノ_・。)

 で、いま話題になっている新書、「WEB進化論」にしようかなと立ち読み。
 うぅ・・・。内容はともかくとして、なんとなく読みにくい印象が。これだけ横文字や数字が多く出てくるなら、素直に横書きにしてしまったら?と、それだけの理由で却下(苦笑)。

 続いて手にとったのが、「『複雑ネットワーク』とは何か」のブルーバックス。
 ハブとかスケールフリーとかクラスターとか、ネットワーク系の話は面白くて好き♪ ぱらぱらっと見ると、mixiを例に挙げていたり、それまでの、海外の書物を参考にというよりは訳しただけ、みたいな本とは違い、きちんと日本人が日本人のために書いた本という印象。

 というわけで、今回の抱き合わせはこの、「『複雑ネットワーク』とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ」に決定♪

 ちなみに、わたしはずっと「複雑系ネットワーク」と覚えていたので、「複雑ネットワーク」と言われると、なんとなくつまづいてしまうような語呂の悪さを感じる。
 けど、それぞれGoogleさんに放り込んでみたら、「複雑系ネットワーク」が、213件ヒットなのに対し、「複雑ネットワーク」は、24,500件ヒット。最初にわたしが読んだ本を訳したヤツ、出て来いっ!!(笑)
[PR]
by mimimarutaro | 2006-03-16 10:13 | 本・映画

22巻は最終巻ではなかったのね

 わたしはマメタロウという雑種犬が活躍する「まっすぐにいこう」という漫画が大好きだ。雑種犬のマメタロウとその飼い主、高校生の郁子との何気ない日常を綴ったものなのだが、とにかく笑わせてくれる。しかし、そこには様々な社会問題が織り込まれており、主人公たちと一緒になって考えさせられ、そしてときには泣かされる。お子さんたちにもおすすめの漫画だ。ちなみに、文化庁メディア芸術祭で優秀賞に選ばれたこともある。

 さて、その「まっすぐにいこう」なのだが、わたしはこれ2001年5月に発売された22巻が最終回だと思い、その後コミックの発売情報などまったくチェックしていなかったのだ。そしたらなんと先日、26巻というのを発見してしまい、えええええっ?!とびっくり。調べてみると、マーガレットでの連載は22巻で一応の最終回を迎えたのは間違いなかったのだが、その後コーラスで連載を再会した模様。なるほど。続きがまた見れるのは嬉しいが、だいぶ乗り遅れてしまったのがちょっと悔しくもあり。

 よかったらみなさんもぜひ、「まっすぐにいこう」で一緒に泣き笑い考えましょう♪

a0006252_11571025.gif

[PR]
by mimimarutaro | 2006-02-22 11:58 | 本・映画

17歳のカキ・ザ・パーシモン

 カキ・ザ・パーシモンは悲しんだ。
 彼は彼のぶら下がっている柿の木の枝から、そろそろ地面に落ちてみようとしたのであるが、ヘタが枝と一体になるかのように堅く萎枯れ、ストンと落ちることはできなかったのである。

 そこに都合よく吹いてきた西風の協力をあおぎ、2,3度その体を揺らしてみるも、自分自身の体が柿の木の枝になってしまったかのようにすぎなくて、それはまる17年の間、彼が自ら望んで落ちたくないと踏ん張っていた成果にこそはなったが、彼を狼狽させ且つ悲しませるには十分であったのだ。

「何たる失策であることか!」

 彼は柿の木の枝の先で、許される限りぐるぐると体をよじってみようとした。人々が希望を失った場合にしばしばこんな具合に身をよじるものである。けれどカキ・ザ・パーシモンのヘタはぐるぐると身をよじるべく柔らかくなかった。彼は体を前後左右に動かすことができただけである。

「いよいよ落ちられないというならば、俺にも相当な考えがあるんだ」

 しかし彼には何一つとしてうまい考えがある道理はなかったのである。

 柿の木の幹には苔が生えていたが、カキ・ザ・パーシモンはその苔を眺めることを好まなかった。寧ろそれ等を疎んじさえした。苔の花粉はしきりにカキ・ザ・パーシモンの周囲にも散ったので、彼は自分の体が苔の花粉によってチーズのように醸されてしまうと信じたからである。
 あまつさえ腐りかけた木のくぼみには、一群れずつの黴さえも生えた。黴は何と愚かな習性を持っていたことであろう。常に消えたり生えたりして、絶対に繁殖して行こうとする意志はないかのようであった。

 高い場所から低い場所をのぞき見することは、これは興味深いことではないか。眼下にはせっせと列をなして物資を運ぶ蟻を眺めることができた。つうと一本引かれた見えない線の上を、無数の黒い蟻たちが行き来しているのである。すべての蟻たちが決められた道すじを歩いており、彼等のうちの或る一匹が、何かの拍子でその列から誤って左によろめくと、その一匹はあたかも重大な過ちを犯してしまったかのように狼狽し、せこせこと元の列に戻っていく。

 カキ・ザ・パーシモンはこの小さな蟻たちを眺めながら、彼等を嘲笑してしまった。

「なんという不自由千万な奴らであろう!」

 或る夜、一ぴきのコオロギが柿の木を登ってきて、カキ・ザ・パーシモンのヘタの上にすがりついた。カキ・ザ・パーシモンはコオロギがそこでなにをしているのか、上を見上げてみたい衝動を覚えたが、彼は我慢した。ほんの少しでも彼が体を動かせば、この小さな虫は驚いて逃げ去ってしまったであろう。

「だが、この虫けらめは、一たいここで何をしているのだろう?」

 この一ぴきのコオロギはカキ・ザ・パーシモンの頭の上を、格好の産卵場所だとにらみ、そこに卵を産みつけているのに違いない。さもなければ、何か一生懸命に物思いに耽っていたのであろう。

 カキ・ザ・パーシモンは得意げに言った。

「くったくしたり物思いに耽ったりするやつは、莫迦だよ」

 彼はどうしても地表に落ちなくてはならないと決心した。いつまでも考え込んでいるほど愚かなことはないではないか。今は冗談ごとの場合ではないのである。
 彼は全身の力を込めてまず上に飛び上がり、その後渾身の力を込めて自らの体を繋ぎとめている枝を振り払うべく降下した。けれど彼は枝のしなりの反動で、むぎゅっとバネが縮むかのごとく引き戻されてしまったのだ。
 この騒ぎでのコオロギの狼狽といっては並たいていではなかった。けれどコオロギは、彼が休むにちょうどよいと思っていた土団子が、いきなりその身を伸ばしたり縮めたりしていた光景に、ひどく失笑してしまった。全くコオロギくらい人の頭の上でよく笑う生物はいないのである。

 カキ・ザ・パーシモンは再びこころみた。それは再び徒労に終わった。何としても彼の頭は枝から離れることはできなかったのである。
 彼の目から涙がながれた。

「ああ神様! あなたはなさけないことをなさいます。たった数年、わたしがこの柿の木になった他の実たちよりも、ずっと成熟してから地表に落ちてやろうと、意地になって無理に踏ん張り続けたからといって、その罰として一生涯この木の枝に私を縛り付けてしまうとは横暴であります。私は今にも気が狂いそうです」

 諸君は、発狂した柿の実を見たことはないであろうが、このカキ・ザ・パーシモンにいくらかその傾向がなかったとは誰がいえよう。諸君は、このカキ・ザ・パーシモンを嘲笑してはいけない。すでに彼が飽きるほど寒風に晒されすぎて、もはやがまんがならないでいるのを、諒解してやらなければならない。いかなる瘋癲病者も、自分の縛り付けられている場所から解放してもらいたいと絶えず願っているではないか。最も人間嫌いな囚人でさえも、これと同じことを欲しているではないか。

「ああ神様、どうして私だけがこんなにやくざな身の上でなければならないのです?」

 眼下では親子と思しき雀がちゅんちゅんとさかんに騒ぎ立て、跳ねたり羽を翻しなぞしながら、餌を探すことにいそしんでいる。
 カキ・ザ・パーシモンはこれらの活発な動作と光景とを感動の瞳で眺めていたが、やがて彼は自分を感動させるものから、寧ろ目を避けた方がいいということに気がついた。彼は目を閉じてみた。悲しかった。彼は彼自身のことを譬えばブリキの切屑であると思ったのである。
 誰しも自分自身をあまり愚かな言葉で譬えてみることは好まないであろう。ただ不幸にその心をかきむしられる者のみが、自分自身はブリキの切屑だなどと考えてみる。

 カキ・ザ・パーシモンは閉じた目蓋を開こうとしなかった。何となれば、彼には目蓋を開いたり閉じたりする自由とその可能性とが与えられていただけであったからなのだ。
 その結果、彼の目蓋のなかではいかにも合点のゆかないことが生じたではなかったか! 目を閉じるという単なる形式が巨大な暗やみを決定してみせたのである。その暗やみは際限もなく拡がった深淵であった。誰しもこの深淵の深さや広さを言いあてることはできないであろう。

 ――どうか諸君に再びお願いがある。カキ・ザ・パーシモンがかかる常識に没頭することを軽蔑しないでいただきたい。牢獄の見張人といえども、よほど気難しい時でなくては、終身懲役の囚人が徒に歎息をもらしたからといって叱りつけはしない。

「ああ寒いほど独りぼっちだ!」

 注意深い心の持主であるならば、カキ・ザ・パーシモンのすすり泣きの声が地面にまで届いているのを聞きのがしはしなかったであろう。

 悲歎にくれているものを、いつまでもその状態に置いとくのは、よしわるしである。カキ・ザ・パーシモンは、すっかりとひねくれた性質を帯びてきたらしかった。
 そして或る日のこと、彼の横の枝にひゅうと百舌が舞いおり、一ぴきの蛙をその枝に刺していったのだ。はやにえである。

 カキ・ザ・パーシモンは、隣の動物もまた自分と同じように、自らの意志でそこから動くことができなくなったのが痛快であった。

「お前ももう一生そこから動くことはできないのだ!」

 悪党の呪いの言葉を、彼は蛙に投げつけた。

「俺は平気だ」
「嘘をつくんじゃない! 平気なわけあるか!」

 カキ・ザ・パーシモンは怒鳴った。そうして彼らは激しい口論をはじめたのである。

「俺が平気だと言っているのだから平気なのだ」
「よろしい、いつまでも勝手にしてろ」
「お前は莫迦だ」
「お前は莫迦だ」

 彼らはかかる言葉を幾度となくくり返した。翌日も、その翌日も、同じ言葉で自分を主張し通していたわけである。

 雨の日も風の日も、そこで二個の生物は、夏の終わりから秋空がひろがるまでを次のように口論しつづけたのである。カキ・ザ・パーシモンは最初、自らの意志でここにとどまりたいと願ったことを、すでに相手に見ぬかれてしまっていたらしい。

「お前、欲をかいたらヘタが固まって落ちられなくなってしまったのだろう」
「お前こそまぬけに百舌になど捕まって、そこから動くこともできまい」
「それならば、お前から落ちてみろ」
「お前こそ、そこから動いてみろ」

 さらに時は過ぎた。けれど彼等は今度は、秋の終わりから木枯らしが吹くまでの間、お互いに黙り込んで、そしてお互いに自分の歎息が相手に聞こえないように注意していたのである。

 ところがカキ・ザ・パーシモンよりも先に、隣の枝の相手は、不注意にも深い歎息をもらしてしまった。それは「ああああ」という最も小さい風の音であった。高い空から吹いてくる冷たい風が、彼の歎息を唆したのである。

 カキ・ザ・パーシモンがこれを聞きのがす道理はなかった。彼は隣の枝を見、かつ友情を瞳にこめてたずねた。

「お前は、さっき大きな息をしたろう?」

 相手は自分を鞭撻して答えた。

「それがどうした?」
「そんな返辞をするな。心配してやっているのだ」
「俺はここでは冬は越せない」
「それでは、もう駄目なようか?」

 相手は答えた。
 
「もう駄目なようだ」

 よほど暫くしてからカキ・ザ・パーシモンはたずねた。

「お前は今どういうことを考えているようなのだろうか?」

 相手は極めて遠慮がちに答えた。

「俺が刺された枝の隣に、お前がいてくれてよかった」

 そう言い残し、蛙は逝った。百舌がその蛙を食べに戻ることは二度となかった。

 カキ・ザ・パーシモンは悲しんだ。自分が動けなくなったと知ったときの悲しみよりも、ずっと深く悲しんだ。

あとがき
[PR]
by mimimarutaro | 2006-02-17 13:17 | 本・映画


のあのあな生活を送りながら、もろもろのことを楽しんで


by mimimarutaro

プロフィールを見る
画像一覧

☆お知らせ☆

最新のトラックバック

盗撮リンク
from Megaporn盗撮ライブラリー
吉木りさ 熱愛中の彼氏と..
from 吉木りさ 熱愛発覚を決定づけ..
太陽光発電 省エネ住宅 ..
from 太陽光発電 省エネ住宅 太陽..

最新の記事

バトラーズ・フレンド
at 2012-10-07 12:12
ズゴック豆腐がいまいちだった
at 2012-10-06 14:14
フィルムスキャナー買っちゃった♪
at 2012-10-05 13:55
アメフト秋季リーグ開幕!
at 2012-09-04 17:20
野球観戦の夏
at 2012-09-02 11:42

カテゴリ

全体
おもうこと・できごと
本・映画
F1・車
アメフト
犬のこと
お金のこと
お家のこと
体のこと・心のこと
テレビ
ブログ・パソコン
短歌川柳
グルメ(お酒)
グルメ(外食)
グルメ(料理)
グルメ(商品)
携帯からつぶやく
CM・ポスター
社会・企業・問題
仕事(専業主婦)
仕事(テレホンオペレーター)
仕事(賃貸住宅仲介業)
仕事(飲食業)
仕事(部長の実験台)
仕事(就職活動)
おでかけ
恋愛
その他の趣味
未分類

以前の記事

2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
more...

お気に入りブログ

☆☆☆ 神 戸 ☆☆☆
雑感 あるいは 玩具箱
*** ユ ミ ***
杏ダイアリー
掬ってみれば無数の刹那
お転婆コーギー犬とEOS...
貧乏OL生活
相模大野 BAR オード...
ギャラリー猫の憂鬱
~人生楽ありゃ苦もあるさ~
サモエド クローカのお気楽日記
暇な日
ぽぽ日和
デイリーパンダ
balmy**
ゆとりすと ~心のゆとり...
びびと私@とるにたらない日常
***ユミえもん*** ...
それいゆ1号
~秋色紫陽花と暮らす日々~
コーギーと風に乗って
40歳と36歳と猫2匹の日常
DreamFighter
ChezdanLife~...
旅の目
アルファのいる暮らし
Corgi Cottage*
猫とカメラと美味しいもの...
ヤマダです、茶トラです、...
ライズRB&TEバチコンブログ
そこそこです
ネット通販生活
車検に代車は要らないから...

外部リンク

検索

人気ジャンル

記事ランキング

画像一覧